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ナチュラル志向を見直す勇気【Dr.村中璃子のからだノート】

子育ては24時間365日のオンコール。「病気だって休めない」あなたと、 あなたの大切な家族を守るため、医療や健康にまつわる知識を身につけよう。

かつての師を批判し、 訴訟を起こされた女性

「最大の代償は友達を失ったこと。ナチュロパシーを信じるかつての友人たちからの攻撃は熾烈でした」

困難や敵意にも関わらず、公共の利益に貢献するサイエンスとエビデンスを広めた人物に与えられる、科学誌「ネイチャー」などが主催する国際賞、ジョン・マドックス賞。昨年は子宮頸がんワクチンの安全性に関する誤解をとくための執筆活動が認められ、不肖ながら私が日本人として初めてこの賞をもらいました。

今年のジョン・マドックス賞受賞者は、元「ナチュロパシー医」で、のちにナチュロパシーを批判する立場に転じた米国人のブロガー、ブリット・ハーミーズさんでした。医師を名乗ってはいますが、国家資格の医師免許は持っていません。ハーミーズさんは、自身のナチュロパシーの師匠であるコリン・フーバーさんの「抗がん剤はがん細胞を集めてがんを悪化させる」「ナチュロパシーはがんを完治させる」などとする主張をブログで批判し、そのために名誉棄損の訴訟を起こされています。

日本ではあまりなじみのないナチュロパシーですが、「断食や健康的な食生活や水、運動に加え、ホメオパシー、鍼灸、漢方などの自然療法とオゾンセラピーや腸内洗浄などを組み合わせ、環境汚染などで失われた健康を回復する治療法」を掲げています。ナチュロパシーを施す訓練を受けた人は「ナチュロパス」と呼ばれ、ナチュロパシーのクリニックのほか、美容院やエステでもナチュロパシーを実践できるそうです。「クリニック」といっても、国や州の許可を受けた医療施設でありません。ナチュロパシーは医療や治療を謳いながら、美容や癒しの領域を出ない民間療法です。

 

極端なナチュラル志向で 人間関係のトラブルも

私のところにもよく「友人がマクロビにはまって、子どもには給食も食べさせないのですが、どうしたらいいでしょう」「ママ友がホメオパシーを信奉して、子どもに一切ワクチンを受けさせていないようです。アドバイスはありますか」などという相談が来ます。また「民間療法の団体をやめようとしたら、裏切者と言われました」「ワクチンは危ないという団体をやめると言ったら、いきなりライングループから外されました」といった話も聞きます。

こういう話をすると、ほとんどの人は、「時々いるよね、そういう極端なママ」といって、受け流すことでしょう。実際、こういう人はごく少数です。でも、私がこんな話をお伝えする理由は、一部のママたちを批判するためではありません。極端な考えに傾倒してしまいそうになる“危うさ”は誰もが持っていること、そしてそこから抜け出すことの難しさを考えてもらうためです。

 

「何となく、そうかも しれない」を問い直す

誰だって、体にいいものを取り入れ、悪いものを取り除くことで、子どもには健康で安全に育ってほしいと思っています。だからこそ、「無農薬」や「オーガニック」というマジックワードが書いてある食品があれば、少し余分なお金を払ってでも買うことがあるし、冷凍食品やできあいのお惣菜で済ませたお弁当に罪悪感を感じることもあるのでしょう。

大事なのは、「体にいいものしかダメ」「病院も医者も信用できない」という極端なナチュラル志向だけでなく、誰もが“ハーフナチュラル志向”や“クオーターナチュラル志向”を持っている、ということの自覚です。

仲良しのママ友や仕事のできる先輩が、「がんは食事で治せる」「ワクチンは危ない」などと言うのを聞いたら、あなたはその話を自信を持って否定できますか?「詳しいことはよく分からないけど、そうかな」と感じるのが普通ではないでしょうか。

信頼する仲間の言うことが、いつも正しいとは限りません。逆に、健康や命を危険にさらしている場合もあります。大切な家族と自分の健康を守るためには、信頼する仲間の常識を、ひいては「これは良さそう!」と思う自分の直感までをも問い直す習慣が大切です。

 

村中 璃子さん
医師・ジャーナリスト。京都大学医学研究科非常勤講師。世界保健機構(WHO)を経て、メディアへの執筆を始める。2017年、ジョン・マドックス賞受賞。著書『10万個の子宮』(平凡社)。
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