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子どもの好きなものに先回りしすぎないで【きかせて、子そだて】

アンモナイトの研究者であり、博物館の学芸員時代には「ポケモン化石博物館」も企画した相場大佑さんですが、意外にも大学時代の専攻は数学で、古生物学の道に進んだのは大学院から。どうやって進路を決めたの?古生物学者になるには?子どもの「好き」を保護者はどう応援したらいい?お話を聞きました。

幼稚園の頃に好きだった恐竜を思い出し、古生物学の道へ

「古生物学者になるには、子どもの頃からたくさん化石を掘ったりしてないとダメですか?」とか「恐竜の名前を知っていたり、詳しくなきゃいけませんか?」と、よく尋ねられます。でも、そんなことはないと思います。僕も恐竜が大好きな子どもでした。幼稚園の頃は、恐竜の図鑑を眺めては、想像を膨らませて絵を描き、折り紙を折っていました。でも、化石を採りに行けるなんて思わなかったし、博物館もそれほど行かず、卒園遠足で行ったのが初めて。恐竜の名前を覚えたりもしていませんでした。

僕が化石を一番最初に触ったのは、後に古生物学を学ぶことになる研究室を訪ねた大学生のとき。

幼少期に恐竜が好きだったことを忘れていたわけではないのですが、多くの「好きなもの」の中では隅に追いやられ、高校生まで進路に古生物が浮かぶことはありませんでした。大学は「受験科目では数学が得意」という動機で数学科に進んだものの、あまり夢中になれませんでした。卒業後の進路に迷っていた大学3年生のある夜、ふとクローゼットの中を整理してみたのです。段ボール箱から出てきたのは、幼稚園の頃読んでいた恐竜の本や、自分で描いた古生物の絵。一気に記憶がよみがえりました。古生物をもっと知りたくなり、インターネットで検索して「古生物学」という学問を初めて知り、大学院から古生物学を学ぶことを一晩で決めました。翌朝両親に話すと、拍子抜けするほどあっさりと応援してくれました。両親も、僕が小さい頃に恐竜に夢中になっていたのを覚えていたんですね。

幼少期に化石に触っていたらあの感動はなかった

「子どもを本物に触れさせたい」とさまざまな体験をさせる親御さんもいますよね。僕が学芸員をしていた博物館でも子ども向けの化石発掘体験があり、中には規定の年齢よりも小さな子にも参加させたいと相談される親御さんもいました。でも、博物館で展示されているようなきれいな化石って、なかなか出てこないんです。発掘は肉体的にもしんどいものです。しかも、がんばっても見つからない……。せっかくの本格的な初体験が、つらい思い出、思っていたよりも楽しくない思い出として残ってしまうかもしれません。はじめての体験で化石発掘を挫折してしまうような小さなお子さんを僕はたくさん見てきました。それなら、たとえば十分な体力がついてからのほうが、化石発掘が、楽しい、有意義な体験になるかもしれません。

僕は大学生の頃、触れられず、目にも見えないものを研究する数学のつらさを知っていたからこそ、「アンモナイトの化石」という実物を初めて触って感動しました。むしろ子どもの頃に触っていたら感動しなかったでしょう。その対象に出会う最適なタイミングってあると思うんです。子ども本人が求めるなら与えたらいいのですが、「保護者が先回りしすぎない」は大切だと思います。  ただ、自分は「古生物学」という学問を知らなかった分、遠回りをしました。そういった選択肢があることを、子どもはなかなか気づけなかったりすることもあるので、情報を得る手助けはぜひやってあげてほしいと思います。

ゲーム禁止にすることはないです。僕は小中高大とゲームは1日何時間もしていました。試験前も隠れてやってましたね。ゲームで培った集中力や思考力、応用力が勉強や研究に活きていたりと、ゲームから得られることは意外と多いです。また、『ポケットモンスター』は、巡回展「ポケモン化石博物館」の企画につながりました。どこで何が結びつくかわからないですね。


僕とアンモナイトの1億年冒険記

「古生物学」という学問を初めて知った大学時代から、アンモナイト研究の門を叩き、北海道で化石を発掘し、博物館の学芸員となり、新種に名前をつけ、研究を進めていく相場さんの“冒険”を一緒に追体験できるエッセイ。研究や博物館の企画展の裏側も覗けます。相場大佑著/イースト・プレス

相場 大佑さん
公益財団法人地質研究所研究員。1989年、東京都生まれ。2017年横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館学芸員を経て現職。専門は古生物学(特に、化石頭足類アンモナイトの分類・進化・古生態)。アンモナイトの生物としての姿に迫るべく研究を進め、これまでに2新種を記載。また、学芸員時代に巡回展「ポケモン化石博物館」を企画し、総合監修を務める。
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