受診したら、医師に叱られた
対等な大人である保護者を「叱る」のはおかしい
「小児科などを受診したら叱られた、もうかかりたくない」といった声を聞くことがあります。叱られる内容は、「もっと早く来ないと」だったり、逆に「こんな症状で来たの?」だったりします。体調が悪く、機嫌の良くない子どもを連れてがんばって受診したのに、叱られてしまっては、もう受診したくなくなって当然です。そもそも医療者だからといって、対等な大人である保護者を「叱る」のはおかしいことですね。
私が聞いた話では、子どもがキウイを食べて赤いブツブツが出たので、父親が小児科に連れていったところ、医師に「もっとアレルギーに気をつけて食べさせないと」と叱られたそうです。しかし、これは医師の勉強不足です。
すべての食材はアレルギーの原因になり得ますし、キウイは日本において特にアレルギーを起こしやすい食べものではありません。「両親やきょうだいがその食材でアナフィラキシーを起こしたことがある」などの事情がないなら通常通り食べさせます。子どもはなるべく食事制限はせず、さまざまな食材を食べた方がいいのです。勉強不足だと思われる場合や、やたらと「あれは食べない方がいい」「これもやめた方がいい」などと指示する医師なら、別の小児科にも行ってみた方がいいでしょう。
個人的な価値観を押し付ける医療者も
「医療者の個人的な意見を押し付ける」ケースもあります。 ありがちなのが、母乳育児についての思い込み。実は、医師や助産師であっても授乳に詳しい医療者は多くはなく、根拠を持って適切な指導ができる人は少ないのです。
そのため、赤ちゃんにミルクを与えたい母親に、「諦めず、頻回授乳すれば母乳は出る」といった精神論や、「和食の粗食を食べていれば母乳の出が良くなる」などの医学的根拠のない説を押し付けてくる人もいます。
母乳育児に限らず、育児のどこにどれだけの価値を置くかは、保護者によって違い、それぞれの考えややり方があります。医療者は医学的根拠のある指導をするべきですし、そこに個人的な価値観を入れることがあってはなりません。
パターナリズムを脱し、双方の協力で信頼関係を
患者と医療者の間には、医療知識の差があるだけで、上下関係はありません。にもかかわらず、高圧的に「そんなことも知らないの?」や「親ならしっかりしないと」などと叱るのは、過去の「パターナリズム(父権主義)」の影響でしょう。以前は、医療においても、「病気が治るなら、患者の理解や承諾は必要なく、医師に従うべき」とのパターナリズムが蔓延していました。しかし、今は、本人への説明や同意などの「インフォームドコンセント」が必要な時代です。
一方で、信頼関係を築くには、双方の歩み寄りが大切です。私も保護者の方の意にすべて沿えるわけではありません。たとえば、「健康保険証や母子手帳を忘れたときに、診察や予防接種を受けられない」ことは、決まりなので要望があっても応じられません。ほかにも、「心配なのでインフルエンザでないか検査してほしい」と言われても、保険診療なので適応外の検査はできないのです。
治療には医療者だけでなく患者や保護者の協力も必要です。ぜひ信頼関係を築いていきましょう。