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親も、自分優先で楽しんでいいんですよ【きかせて、子そだて】

育児休業中である、捜査一課の男性刑事 秋月春風(あきづきはると)が、息子の蓮(れん)くん(0歳)とともに事件の謎を追う『育休刑事』。NHKでドラマ化もされ、現代の育児知識やリアルな事情も満載の本格ミステリです。自身も子育て中の父親である、作者の似鳥鶏さんにお話を聞きました。

父親はベビーカーとバスに乗っても舌打ちされない

『育休刑事』は、「主人公が育休中の刑事」なだけではなく、「男性であること」が重要なポイントになっていて、私自身の育児の実体験も多く盛り込んで書いています。私はフリーランスなので、主人公と違って育休は取れなかったのですが、妻が育休から復帰し、息子が保育園に入園した生後11カ月以降は、家で仕事ができる私が、どちらかというと育児を担っていました。

私がベビーカーを押していると、「お母さんは?」とよく声をかけられます。「今日いないんですよ」と答えると、「ああ、ごめんなさいね」と悪いことを聞いてしまったように謝られます。年配の女性は「大変ね」とあれこれ世話を焼いてくれます。男性が1人でベビーカーを押していると、「事情があるに違いない」と思われるようなのです。

でも、逆に男性だと、ベビーカーと一緒に電車やバスに乗っても、舌打ちされるようなことは一切ありません。私は身長が188cmあるのですが、もし本当にベビーカーが邪魔なら、大男の私にも文句がくるはずです。つまり、ベビーカーと一緒の女性に苦情を言う人は「女性だから」なんですね。その事実を知ってもらった方がみんなが楽になれると思って、作中に盛り込みました。

育児書を読まない人にもミステリなら情報を届けられる

子どもに対して「邪魔」だと感じていたり、関心がない人は、子どもと触れあう機会がない人が多いと思うのです。近くで見て触れあうと、基本「かわいいー」となりますから。子育てから遠い人にこそ、読んでもらいたいですね。

作中には「SIDS(乳幼児突然死症候群)」など、育児についての情報も意図して増やしています。なるべく医学的にも正しい内容にしたくて、専門書を引いたりしながら書いています。

育児書は、女性向けに書かれたものが多くて、男性だと手に取りにくい人もいるでしょう。そんな人もミステリなら読みやすいと思うので、読むうちに何となく育児情報も得てくれたらいいですね。

今は読者の情報リテラシーも上がっていて、ミステリにもいい加減なことは書けません。「背後からぐっと嗅がせて一瞬で気絶させる薬」なんてないですし(笑)。育児情報の場合はもっと大変で、相談サイトなどを見ていると、ちょっとしたことでも気にする人がとても多いんです。「本には『○歳までにこれができる』と書いてあるのに、うちの子はできない」とか。ですから、不安を煽ったりしないように、主観を入れず、客観的な事実だけを書くようにしています。

トレードオフじゃなく、 育児の経験は仕事に役立つ

『育休刑事』を書いていた頃は赤ちゃんだった息子も6歳になり、手がかからなくなってきました。

今から子育てをする人に伝えたいのは、「育児の経験を得ると、仕事の役に立ちますよ」ということ。仕事と育児は「どちらを取るか」といったトレードオフの関係ではなく、「育児をすることで強い仕事人になれる」くらいの気持ちでいた方がいいと思います。

子育ては夫婦2人ではできません。ましてや1人では絶対無理ですね。できれば3~4人で分担して、各種サービスもたくさん利用して、なるべく人の手に任せて、がんがん手を抜いてください。

それに、子どもを笑顔にしたかったら、まず親自身が楽しんでいる姿を見せるのがいいですよ。好きなドラマを一緒に見たときなんて、「お父さんすごく楽しそうだったね」って息子がうれしそうに言うんです。「自分優先で申し訳ない」じゃなく、むしろ率先して楽しんでください。親も自分の「好き」をやっていいんですよ。

育休刑事、育休刑事 (諸事情により 育休延長中)

育休中の男性刑事が、赤ちゃん連れで事件に巻き込まれるミステリ。子育てにまつわる社会問題も扱う。「生後3~7カ月」の期間を描いた『育休刑事』に対し、待望の続編は「1歳~育休終了」が舞台。2023年4月~6月にNHK「ドラマ10」でテレビドラマ化。ともに、著:似鳥鶏、出版社:KADOKAWA/角川文庫。

似鳥 鶏さん
ミステリ作家。1981年千葉県生まれ。2006年『理由あって冬に出る』で第16回鮎川哲也賞に佳作入選し、デビュー。テレビドラマ化された「戦力外捜査官」シリーズなど、多くのミステリ作品を発表。6歳の息子の父親。
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