新生児医療が発達する日本で、新たな問題となっている「医療的ケア児」とは? 認定NPO法人フローレンスで障害児保育事業に携わる石川廉さんにお話を伺います。前編では、医療的ケア児を持つ親がどのような状況に置かれているのか、詳しく教えていただきました。
石川 廉さん
認定NPO法人フローレンス 障害児保育事業部サブマネージャー。重度の障害児も通える日本初の保育園「障害児保育園ヘレン」の立ち上げメンバー。「全国医療的ケア児者支援協議会」事務局として政策提言活動も行う。
認定NPO法人フローレンス
医療的ケア児とは、どんな子どもたちでしょうか?
生活をする上で、チューブを通して胃に直接栄養を送る「経管栄養」や「たんの吸引」、人工呼吸器の装着、気管切開など、何らかの医療的ケアを必要とする子どもたちのことです。
自分で歩いたり、絵本を読んだりできる子どもから、寝たきりの子どもまで、さまざまな医療的ケア児がいます。その数は全国に1万7000人(※)と推定され、ここ10年で2倍に増えています。
※「医療的ケア児に対する実態調査と医療・福祉・保健・教育等の連携に関する研究」中間報告より
増加の原因は何でしょうか
総合周産期母子医療センターや新生児集中治療室(NICU)の整備が進むなど、日本の新生児医療が急速に進化したことが背景にあります。
たとえば、1,000g未満で生まれる超低出生体重児や先天性異常・疾患を持つ赤ちゃんなど、以前であれば助からなかった赤ちゃんも、医療的ケアをほどこすことで生きられるケースが増えたのです。医療的ケア児は、これまでにない「新しい障害児」といえるでしょう。
救える命が増えたのはとても素晴らしいことですが、問題は、日本ではこうした状況への対応が遅れていて、医療的ケア児の預け先や、受けられる支援サービスがほとんどないことです。医療的ケア児は、NICUを退院すると行き場がないのです。
結果、保護者のどちらか、多くの家庭では母親が家で24時間365日、子どもにつきっきりでケアせざるをえません。
なぜ、受け皿がないのでしょうか?
一つは、医療的ケアに対応できる幼稚園保育園、施設がほとんどゼロだからです。
医療的ケアを行えるのは、基本的には家族と医師・看護師に限られるため、幼稚園保育園では「看護師がいないのでお預かりできません」となってしまう。未就学の障害児を対象とした施設でも同じです。
重症心身障害児のための児童発達支援事業所は、看護師が配置されているので受け入れが可能ですが、事業所の数が少なく、実際に通所するのは非常に難しいです。
また、従来の障害福祉サービスは重症心身障害者を基準としていて、医療的ケアを受けていても知的障害は軽度であったり、自分で動いたり、歩いたりできる子どもは対象とならず、支援を受けることができないなど制度上の問題もあります。
医療的ケア児を在宅でみるのは、親にとって大きな負担ですね
医療的ケアは昼夜を問わず行うものなので、介護をする親は、日中は買い物に行くこともままならず、夜も十分に眠ることができません。
厚生労働省の調査(※)によると、医療的ケア児の介護者の約半数が、睡眠時間が6時間未満となっています。それも、断続的な睡眠であることが多いです。
家にこもって子どもとだけ過ごす生活は、精神的にも親を追いつめ、虐待につながる可能性もあります。また、働けないうえに、医療費や通院の交通費、ケア用品などの出費が家計を圧迫し、経済的困難に陥るケースもあります。医療的ケア児を持つ親は、待ったなしのひっ迫した状況なのです。
※平成28年厚生労働省委託事業「在宅医療が必要な子どもに関する調査」
後編に続きます(※後編は2月19日公開予定です)