pick up 子育て 暮らし

育児に加えて親の介護も?! どうする?ダブルケア【ママのこまりごと前編】

育児と親の介護を同時に担う「ダブルケア」をする人が、近年増えています。この問題に、ママはどう対処すればいいのでしょうか?

介護者メンタルケア協会代表であり、ご自身も重度身体障害者の母親と知的障害の弟、認知症の祖母、家族3人を介護する「トリプルケア」をしてきた橋中今日子さんに2回にわたってお話を伺います。

前編では、ダブルケア当事者がどのようなことに困っているのか、橋中さんご自身の経験も交えて教えていただきました。

橋中今日子さん
介護者メンタルケア協会代表。理学療法士として病院勤務しながら、認知症の祖母、重度身体障害の母、知的障害の弟を22年間一人で介護。現在、メンタルコーチとして介護関係者の心身をサポートする活動を行う。
介護者メンタルケア協会 http://kyonchankaigo.com

 

親の介護はまだ先、と思ってしまいますが…

内閣府の推計(2016年)によると、ダブルケアを行う人は全国で約25万3,000人に上るとされていて、少子化や晩産化により、今後さらに増えていくことは確実です。

「私にはまだ早い」と思われるかもしれませんが、介護は突然やってくるもの。決して他人事ではないんですよ。

 

ダブルケアの大変さは、たとえばどんなことでしょうか?

子育てだけでも予測不能な事態に振り回されて大変なのに、そこへ介護が加わると、夜中に認知症の親が騒いだり、骨折をして身動きがとれなくなったり、出勤しなければいけないのに、悪天候でデイサービスのお迎えバスが来なかったり…などなど、まさに毎日がトラブルとハプニングのオンパレード。

これを育児もしながらとなれば、四六時中、休む間なく対応に追われることになります。突然、そんな事態に直面したら誰でもパニックになるし、ママ1人ではとても担いきれるものではありません。

 

そう聞くと、ちょっとドキドキします

だからこそ、介護がまだの人も、今から準備をしておくことが大切。困ったときにどこへ相談すればいいか知っておくだけでも、いざという時に全然ちがいますよ。

ダブルケアで困ったときは、まずは「子育て支援センター」、介護については全国の市区町村に設置されている「地域包括支援センター」に相談する、と頭に入れておきましょう。

 

地域包括支援センターとは、どんなところでしょうか?

地域の高齢者の暮らしを包括的にサポートするための施設です。保健師や社会福祉士、主任ケアマネージャーなどの専門家が配置されていて、介護のさまざまな相談に応じてくれます。

この施設の良いところは、介護保険の対象者でなくても相談できること、また、問題が起きた時はもちろん、問題になる前でも対応してもらえることです。「母が最近、物忘れがひどくて」「体調を崩しやすくて心配なのですが…」といった相談もOK。

遠方に住んでいる親の様子が心配な場合は、親が住んでいる地域の地域包括支援センターに「いざという時、すぐ駆けつけられなくて心配なのですが」と連絡をしておくのもおすすめです。民生委員と連携して定期的に親の自宅を訪問するなど、柔軟に対応してくれます。

インターネットで、住んでいる地域名と「地域包括支援センター」で検索すると情報が得られるので、一度、確認しておくといいですね。

 

橋中さんのもとには、ママからどんな相談が寄せられますか?

まわりに話せる人がいない、周囲に理解してもらえないといった相談が多いです。他のママたちが育児だけでもいっぱい、いっぱいなところへ介護の話はしにくいし、「親が認知症になって…」とは、恥ずかしくてなかなか言い出せないんですよね。

職場やPTAで事情を説明しても「大変なのはみんな同じ。そのくらいどうにかして」と、取り合ってもらえないことも多いです。

育児と介護、家事、仕事を両立する壮絶さは外からは見えにくいので、周囲の理解や協力を得られずに孤立してしまうケースがたくさんあります。当事者にとって「わかってもらえない」状況は、とても辛く、苦しいものです。

 

橋中さんも同じような経験をされたのでしょうか

私も、職場の理解を得られずに孤立してしまったことがあります。

私は20代の頃から認知症の祖母と重度身体障害の母、知的障害の弟を1人で介護していて、睡眠時間は毎日2、3時間、食事は立ったままかきこみ、朝は顔を洗う間もなく出勤するような日々を送っていました。

職場では残業ができないし、遅刻も増えます。仕事との両立にとても悩んだけれど、家族で働き手は私だけなので、辞めるわけにはいきません。

そんなある日、上司から「みんなに迷惑をかけながら働くなら、辞めてほしい」と言われてしまって。すごくショックでした。私1人で家族3人を介護していることは、職場の人も知っているはず。しかも、私の職場は医療施設でケアする側です。それなのに、なんでわかってもらえないの?って。

 

なぜ、そのような状況になってしまうのでしょうか

介護者に大きな負担がかかってしまうのは制度が足りていないからですが、私は、実はコミュニケーション不足もあるのではないかなと思っています。

当事者は「どうせわかってもらえない」「自分でなんとかしなければ」「弱音を吐いたら評価がさがる」などと、心も口も閉ざしてしまいがち。

また、自分では伝えているつもりでも、伝わっていないこともあります。私も最初は「どうしてこの状況をわかってもらえないの?」と怒りが湧いたけれど、後でよくよく考えたら、具体的に何がどう大変なのか、たとえば、夕方4時にデイサービスの送迎バスが来るから、それまでに帰宅しなければいけない、認知症の祖母が火事を出して気が気じゃないから、家を離れられないとか、そこまでは説明していなかったんですね。

ミスコミュニケーションが原因で周囲との溝がどんどん深まり、孤立してしまう介護者、ダブルケアラーがたくさんいます。そうなると、状況は悪化するばかり。苦しい気持ちが溜まって爆発し、取り返しのつかないことにもなりかねません。

 

(後編に続く)

『がんばらない介護』 著:橋中今日子 発行:ダイヤモンド社
認知症の祖母、重度身体障害の母、知的障害の弟のトリプルケアを22年間1人で行ってきた理学療法士が教える、介護をする人の心を軽くするコツ。実例に対する明快なアドバイスがわかりやすく、介護真っただ中の人、始まったばかりで不安な人はもちろん、「介護はまだ先」という人が備えとして読むのもおすすめです。
一覧へ戻る

関連する記事

カテゴリ一覧