子どもの「なんで?」「どうして?」に、親は答えに困ったり、面倒でつい、ごまかしちゃったり。本当はどう応えてあげたらいいのでしょうか?
大人と子どもの哲学探究「こども哲学」を実践する、NPO法人「こども哲学・おとな哲学 アーダコーダ」の副代表理事 河野哲也さんにお話を伺いました。今回はその前編をお届けします。
河野 哲也(こうの てつや)さん
慶応義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。立教大学教授。NPO法人「こども哲学・おとな哲学 アーダコーダ」副代表理事。子どもから大人までの幅広い層に、哲学の楽しさと自由さを広める活動に取り組んでいます。
「こども哲学」とはどういうものでしょうか?
たとえば、「どうして勉強するの?」「心はどこにあるの?」といった正解のない身近な問いについて、大人と子どもが話し合い、探究していく学びの場です。1970年代にアメリカの哲学者マシュー・リップマンが、子どもの思考力とコミュニケーション力を育む哲学教育として確立したもので、今はアメリカやヨーロッパ、アジアなど、世界の教育現場で実践されています。
「答えのない問いを考えて意味があるの?」とよく訊かれるのですが、むしろ、すでに答えがある問題は考える必要はないんですね。インターネットで調べても、大人に訊いてもわからない、だからこそ自分たちで考える意味があるし、考えるのが楽しいのです。
子どもはそんな難しいことを考えたり、話したりできるのでしょうか?
ゆっくり、じっくりと話し合える場をもうければ、それこそ幼稚園・保育園の子どもでも、大人に負けないくらい物事を深く考えられるし、はっとするような鋭い発言をしますよ。普段はおとなしい子どもが誰よりも活発に発言して、驚かされることもよくあります。
そんな子どもたちの姿を見るにつけ、本当は、子どもは普段からいろいろなことを考えていて、話したい気持ちもいっぱいあるのに、私たち大人が抑えこんでいるだけではないかなと思います。
対話をするうえで大切なことは何でしょうか?
1つは、ゆっくり時間を使うことです。今は学校も社会も忙しく、大人も子どもも追い立てられていて「待つ」ことがありません。学校の先生もよく、指した子どもが発言しないと、何秒も待たずにすぐ次の子どもを指してしまいますが、それでは子どもがやる気を失くしてしまいます。
こども哲学では、子どもたちがリラックスして考えることに集中できるよう、時間を十分にとります。発言者がすぐに話し出さなくても、考えをまとめたり、言葉を選んだりするのをみんなでゆっくりと待つのです。時間がきたら、進行の途中でも終わりにすればいいので、むりに急ぐことはしません。
2つ目は、人の話を聴くこと。どんな内容でも、本人が真面目に話していて誰かを傷つけるものでない限り、最後まで話を聴きます。質問があれば、話し終わってから投げかけます。その人が言いたいことは何なのか、わかるまでじっくりと耳を傾けるのです。
3つ目は、考えは変えてもいいということ。ディベートの場合は賛成派と反対派に分かれ、最後まで意見を変えずに議論を闘わせることで論証力などを身につけていきますが、こども哲学は人の意見を聴くことで、それまでの考えを変えるのは大歓迎。それは、考えがより深まっていくことだからです。
「ゆっくり聴いて変わる」。こども哲学が大切にしていることです。
対話を通して、子どもたちにどのような変化があるのでしょうか?
私が見学したアメリカ・ハワイ州の中学・高校の例をご紹介しましょう。ハワイ州は民族が多様で貧富の差が大きく、民族同士の軋轢が多い地域で、一時は学校でも校内暴力が多発し、荒れた状態でした。そこへ、ハワイ大学のジャクソン教授が、学校の先生たちと協力してこども哲学を導入し、こども哲学を導入し、生徒たちが抱える問題について対話を繰り返すうちに、生徒たちは次第に落ち着いていき、非行率も少しずつ低下していったのです。
対話をじっくりと重ねていくと、その集団に信頼感と包容力が生まれます。「間違うかも」「ばかにされないかな」などと恐れることなく発言でき、みんなが自分の話を真剣に聞いてくれて、受け容れてくれるセイフティな環境は、子どもに落ち着きと安心感をもたらし、子どもたちの心を開かせることができるのです。
こども哲学ってどんな風にするの? 動画でご覧いただけます。
*夏休み限定*ドキュメンタリー映画「こども哲学〜アーダコーダのじかん〜」をYouTubeにて無料公開
NPO法人「こども哲学・おとな哲学 アーダコーダ」では、夏休み限定で(〜8月31日)、4歳から6歳のこどもたちが1年間こども哲学に取り組んだ記録、ドキュメンタリー映画「こども哲学〜アーダコーダのじかん〜」をYouTube上で無料公開しています。
親子で、家族で、あるいは地域のおともだちと、一緒に楽しんでいただけたらうれしいです。一人でも「哲学おもしろそう!」と思ってくださる方が増えますように。