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南極から見えた気候変動 子どもにツケを回さないために【きかせて、子そだて】

「極地記者」として、南極に3回、北極に7回、取材に赴いた中山由美さん。子どもたちに南極・北極について知ってもらうための講演や本の執筆も行っています。南極に取材に行った経緯や南極・北極から見えた環境の変化についてお話を伺いました。

突如飛び込んだ昭和基地は 各分野の専門家が集まる場所

「自分で希望して南極に行ったんですか?」と、よく尋ねられるのですが、最初はそもそも「南極に行ける」なんて全然思ってなかったので、手を挙げるも何もなかったんですよ。朝日新聞の創刊125周年事業として久しぶりに南極に記者を送ることになり、「どうせなら女性初の越冬記者を送り出そう、それなら生きのいい記者がいるぞ」と白羽の矢が立ちました。突然「南極に行きたいか?」と言われ、飛び込んだ越冬隊の取材で、1年4カ月を南極で過ごすことになったのです。

南極観測隊の越冬隊は、今は30人くらい。「観測系」と「設営系」に分かれます。観測系は、オーロラや大気、地圏などを観測する研究者や気象庁の人など。設営系は、お医者さん、調理師さん、雪上車や発電機などの整備をするエンジニア、建築に関わる人など。いろんなバックグラウンドの人がいる「小さな社会」です。

小学校で講演する時、私はいつも「南極に行くチャンスはみんなにあるよ」と言うんです。観測隊員を目指すなら、勉強や料理、手先の器用さなど、「これなら誰にも負けないぞ」というものを伸ばして、チャレンジしてくださいね。

15年前の「かもしれない」は 日本で今起こっていること

日本が南極や北極を観測してわかったことのうち、ひとつには地球環境の変化があります。二酸化炭素などの温室効果ガスにより、地球温暖化が進んでいますが、なかでも北極の気温上昇は特に激しく、北極海の夏の氷の面積は、2000年頃に比べ、最近では半分くらいになっています。グリーンランドで出会った猟師さんは、「昔は氷河の端があそこまであったけれど、今はここまでしかない」と小さくなったことを教えてくれました。

北極に比べると、南極の氷ははるかに多いので、まだ目に見えてとけてはいません。ただ、南極の観測データからは、二酸化炭素の濃度が右肩上がりで増えていることがはっきりとわかっています。

最初の南極滞在から帰ってきた年、私は100回以上講演をしました。講演で伝えたのは、「温暖化が進めば、日本でも巨大な台風や洪水、熱帯の伝染病に見舞われるような、気候変動が起こるかもしれない」ということ。その「かもしれない」は今、現実になってきました。当時の皆さんが「ふーん」と聞いていた、巨大台風や豪雨災害、蚊の媒介する熱帯病であるデング熱は、既に日本で起こったことです。

二酸化炭素濃度を、完全に産業革命前に戻すことは無理でしょう。私たちに江戸時代のような生活はもはやできません。できることは、今増え続けている排出量を、少しでも減らすことです。大人は経済やコロナ対策など目の前の問題だけを見がちですが、将来気候変動のツケを払うのは、今の子どもたちや次の世代。環境の変化は、戦争も引き起こすかもしれません。100年後、「昔の世代のせいで、こんな世界に…」と言われないためにも、今、大人として恥ずかしくない行動をしたいですね。

 

北極と南極の「へぇ~」  くらべてわかる地球のこと

「南極と北極、寒いのはどっち?」「氷の量が多いのは?」「動物が人間に近寄ってくるのは?」など、気になる疑問にやさしい言葉で答えてくれる本。地球環境の変化も学べます。かわいい絵や写真もいっぱい、ふりがな付きなので、親子で一緒に読んだり、小学生が自分で読むにもぴったりです。

出版社:学研プラス 著:中山 由美

中山 由美さん
朝日新聞記者。2003年に45次南極観測越冬隊に同行したのを皮切りに、51次夏隊、61次越冬隊と3回南極へ。北極はグリーンランドやスバールバル諸島など7回、パタゴニアやヒマラヤの氷河も取材し、地球環境を探る「極地記者」。毎週水曜に朝日新聞デジタル・東京都内版で、南極取材の様子を綴った「ホワイトメール」を連載中。
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